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東北旅行と松尾芭蕉

弁護士 浅野喜彦

 先日、山形県の立石寺を観光しました。「閑(しづか)さや岩にしみ入(いる)蝉の声」という松尾芭蕉の俳句で有名なお寺です。季節もちょうど、芭蕉が訪れたのと同じ7月(旧暦の5月)で、彼が聞いたであろうニイニイゼミの鳴き声も聞こえました。

 この句は、推敲の過程で、上五が「山寺や」から「さびしさや」、次いで「閑さや」へ変更され、中七も、「しみつく」から「しみこむ」、もう一度「しみつく」を経て、結局「しみいる」に落ち着いたそうです。私の考えでは、いずれも完成形の「閑さ」「しみいる」が秀逸で、とくに、蝉の声が「岩にしみいる」という発想は、この句のハイライトだと思います。

 ちなみに、ニイニイゼミは、アブラゼミの「ミーン、ミーン」という鳴き声と違って「ジィー」と控えめに鳴くので、「閑さ」とは矛盾しません。もっとも、芭蕉は「閑さ」をもともと「さびしさ」と表現していたくらいですから、ここにいう「閑さ」は物理的な音の強弱ではなく、彼の心の中を描写しているのかもしれませんが。

 ところで、この旅行では、東北新幹線の車窓から、那須野ヶ原という一帯(現在の栃木県北東部)を見ることができました。私は、「おくの細道」の中で、この那須野ヶ原の場面がいちばん好きです。

 当時ここは荒涼とした原野で、芭蕉は、道に迷い雨に降られて途方にくれました。そこで、野飼いの馬を連れて草刈りをしていた農夫にその馬を貸してもらえないかと頼み込んだところ(原文では「草刈おのこになげきよれば」)、この人が、「いかがすべきや。」と当惑しつつも、「この辺りは道が縦横に分かれていて、はじめての人は迷いやすいから、乗って行きなさい。この馬の立ち止まる所で放してくれれば、馬は勝手に帰ってきますから。」と言って、大切な馬を貸してくれるのです。芭蕉は「野夫といへども、さすがに情しらぬには非ず」と失礼なことを書いているのですが、心細くなって見ず知らずの人に嘆き寄る彼の姿と、戸惑いながらも貴重な馬を貸してくれる農夫の様子が目に浮かぶような、ユーモラスで温かいエピソードです。このあと、芭蕉はなんとか人里に至り、「あたひ(謝礼)を鞍つぼに結び付けて馬を返しぬ」と記しています。

 今回は、以前から行ってみたかった二つの芭蕉ポイントを、一度に見ることができました。天候もよく、温泉にも入って、充実の旅行です。

以上