電話アイコン アクセスアイコン メールアイコン 相談アイコン 夜間・休日相談アイコン 閉じるアイコン このページの先頭へ 右矢印 右矢印 右矢印 外部サイト
このページの先頭へ

ご相談はこちら

土曜・夜間相談

事務所から見える和歌山城

コラム

column

  1. ホーム
  2. コラム
  3. 「うそ発見器」の証拠能力

「うそ発見器」の証拠能力

弁護士 浅野 喜彦

 刑事小説やドラマで活躍しているポリグラフ検査(いわゆる「うそ発見器」)をご存知でしょうか。これは、被験者に質問を投げかけ、それに対する呼吸、皮膚電気反射、血圧脈波を記録・分析して供述の真偽を判断するものです。つまり、「嘘をつく→感情が変化する→体に生理的変化が起こる→器械が反応する」という仕組みで嘘を発見するということになっています。

 ポリグラフ検査は、すでに現実の犯罪捜査で活用されており、被疑者・被告人が事実を否認しているときなどによく実施されます。そして、訴訟では、検察官がその検査結果を証拠として提出することがあります。

 ポリグラフ検査結果の証拠能力については、これが実質的に黙秘権を侵害する違法捜査なのではないかとか、いわゆる伝聞禁止の法則(※参照)に反するのではないかという問題もありますが、それ以前に、そもそもポリグラフ検査という曖昧なものが刑事訴訟の証拠たり得るのか、という問題が提起されています。このことを、専門用語では、証拠の「関連性」の問題と呼んでいます。 

 刑事訴訟では、事実の存在を推認させる最小限の証明力すらない証拠は、「関連性がない」として、証拠能力を否定されます。例えば、殺人罪の訴訟において、「占いの結果は、彼が犯人であると示している」という事実は、現代の裁判では、明らかに関連性がありません。他方、「被告人は、事件直後にその町を立ち去った」という事実については、関連性の有無について見解が分かれると言われています。

 では、ポリグラフ検査の場合はどうでしょうか。判例には、検査者の技術・経験、被験者の同意、検査結果の忠実な記載等を条件に、関連性を認めたものがあります。一方で、学説の中には、器械の正確性について評価が一定していないこと、検査の前提に不確定要素が多いことなどを理由に、同判例に反対する意見が多いようです。

 私自身は、後者の意見に賛成です。ポリグラフ検査は、「嘘をつく→感情が変化する→生理的反応が起こる」という一連の経過を前提にするものですが、これらはあくまで仮説であり、不確定要素が多すぎると言わざるを得ません。感情の変化は嘘をつくこと以外の要因(たとえば、過度の緊張)によって生じることもありますし、生理的反応は感情の変化以外の要因(たとえば、気温や湿度などの外的要因)で起こることもあるでしょう。さらに言えば、長時間の取調べ状況下にある被験者は興奮状態にあり、正常な生理的反応が期待できないとの危惧もあります。

 ポリグラフ検査が真相解明のための有効なツールであることは否定しませんが、それはあくまで捜査活動の一種としてのみ利用されるべきです。ひとの人生を左右する刑事訴訟において、これを証拠として利用するのは、少なくとも現在の技術段階においては尚早というべきではないでしょうか。

 

※「伝聞禁止の法則」:伝聞証拠(反対尋問の機会が与えられていない供述証拠)の証拠能力を否定する原則。ポリグラフ検査結果回答書も、本来は記載者、検査者、さらには被験者への反対尋問が必要となり得るので、伝聞証拠にあたる。