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エネルギー問題を考える

弁護士 浅野喜彦

 先日、脱炭素や放射性廃棄物処理問題についてのシンポジウムを聴講する機会がありました。様々な分野の専門家が非常にわかりやすく話をされていて、たいへん勉強になるシンポジウムでした。

 現在、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の量的な限界や、CO排出量を削減する必要性について、誰もが危機感をもっていると思います。シンポジウムでは、日本政府が注目している「ゼロエミ火力」についても、根本的な解決策にはならないことが示されていました。このうち、石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させる「アンモニア火力」は、CO排出量の少ない発電方法として期待されていますが、そもそもアンモニアの作成過程でCOが発生する上、アンモニア混焼率を必要なレベルに上げるための技術開発にはまだまだ見通しが立たないようです。COを回収して地中に埋めるという「CCS火力」も、世界でまだ一か所しか実績がなく、回収率も低いといいます。

 やはり、問題を解決するには、一見愚直に見えても、太陽光や風力などの自然エネルギーを伸ばしていくことしかなさそうです。問題になるのはその現実的可能性ですが、登壇した専門家は、エネルギー効率の改善や省エネ技術の普及により、自然エネルギーで需要を充たすことは十分可能だと話していました。たとえば、日本の新築建物に使用されている窓の断熱性は他の先進国と比べて著しく遅れており、そういうところを一つ一つ検証していけば、改善の余地がかなりありそうです。私たちはそろそろ、この問題を、単に道義的な文脈ではなく、戦略的、現実的に検討しなければならない段階にきていると感じました。

 原子力発電に伴う放射性廃棄物の処分方法も、たいへん重い課題です。現在、最も研究が進んでいる処分方法は、廃棄物をガラスに混ぜて固体化し、バリアに包んで深い地層に埋めてしまうというものですが、周知のとおり、地中の放射性廃棄物が無害なものへと変質するには何万年もかかります。他方、廃棄物を包むバリアにどのくらいの耐久性が見込めるのか、バリアの寿命に影響を与える地下水の流れ、岩の亀裂、微生物の動向などはどのように予測すればよいのかなどについて、いずれも確定的なデータはなく、何とも心もとない印象を受けます。

 シンポジウムでは、最終処分地への立候補をめぐって住民の意見が分かれ深刻な対立が生じた自治体の事例や、原子力発電の恩恵を受けてきた現世代とこれから廃棄物処理の負担を背負わされる将来世代の間の世代間倫理についても、議論されていました。「NIMBY」(not in my back yard)という俗語があり、「必要だとは思うが、自分の家の裏庭には来てほしくない」という姿勢を揶揄して使われるようです。私は、原子力発電には反対の立場ですが、事実上その恩恵を受けてきたという意味では、「NIMBY」と言われても反論ができません。

 今回のシンポジウムは、遠い将来ではなく目前に迫った不安を突きつけるもので、たいへん重い気分になりました。月並みですが、やはり一人一人の市民が情報を共有し、関心を高めていかなければ、問題の解決はないのだろうと思います。

以上