
コラム
column
「アメリカよ、何処へ行く」ートランプ問題の第2信-
1 一人の日本国民としての願いと主張
トランプ政権による世界経済の混乱と動揺が続いている。経済専門家から見て、結局は自国の混乱と困難に跳ね返ってくるだけと評される無謀な関税政策が、近々に破綻することを願わずにはいられない。さらには、ウクライナ問題・ガザ地区問題に関するトランプの対応ぶりから、世界の安全保障問題が大きく揺らいでいる。この点では、「武力による領土拡大は許さない」という、国際法の原則が貫徹する世界が保持されるよう願うと共に、日本政府もそのために積極果敢に働くべきことを主張したい。
2 法律に携わる者としての視点より
⑴ 相次ぐ蛮行
トランプによるアメリカ国内での事態に目を転じれば、無謀な人権侵害の頻発が報道され続けている。こちらは、関税問題や安全保障問題ほどに一般の人々の関心を集めていないが、法律に携わる者の立場からすれば、関税問題・安全保障問題に匹敵する重大問題として常に報道に注目せざるを得ない。具体的には、
① 不法移民と一方的に決めつけて拘束し、法の支配の全く通用しないエルサルバドルのような国へ強制送還する
② 大学内の意見発表の場における論文の内容を理由に、当該学生を一方的に拘束する
③ 大学が政府の方向を支持しないことを理由として補助金を交付しない
といった蛮行である。これが「自由と民主主義のリーダー」を標榜してきた国家の中で起こっていることに、驚きと共に強い怒りを感じるものである。

ハーバード大学校内
⑵ アメリカの国際評価と自国の価値を低下させるさらなる愚策
今回のコラム記事を起案中に、ハーバード大学における留学生受入認可を、トランプ政権が一方的に取消すとの暴挙に出たことが報道された。これは、言うことを受け入れない大学に対し、補助金停止に続き資金面で打撃を与え、屈服させようというものである。政権の意向を通すために発した行為であるが、このようなやり方は、大学側に弁明・反論の機会を与えない処分であることから、適正手続を無視した違法なものであると断じられる。そして、手法としては、強権国家も顔負けするようなやり方であって、三流策士が画策したものと評せざるを得ない愚策である。このような蛮行は、アメリカが民主国家であることの否定を、世界に宣言するに等しいものであり、国家としてのアメリカの価値を低下させるものと言わざるを得ない。

ハーバード大学校内
⑶ 司法による抵抗と反撃を
このような憲法や法律無視の蛮行に対し、アメリカの心ある弁護士達が起ち上がり、政権を相手に次々と訴訟手続を執っているようである。そして、その多くで(-私が知り得た情報では7割位で政権を敗訴させている-)連邦地裁レベルの勝訴を得ていることに、法律家の一人として、一定の安心を覚えている。
しかしながら、トランプ政権はこうした判決に従わず、あまつさえ狂信的かつ知性欠如としか思えない一部のトランプ信者達をして、裁判官個人を攻撃する方途にまで出ているようである。また、政権の方向性に沿わない弁護士活動を行うことに対し、巨大法律事務所に圧力をかける挙に出ている。報道では9つもの法律事務所が、これに屈服をさせられているようである(-他方、政権の圧力に対し、これに屈しない方向を選択した巨大法律事務所も複数で存在していると報道されている-)。このような形での司法への攻撃は、民主的な政治体制の下では、あってはならないことである。おそらくは、トランプの知的レベルは、三権分立という思考やそれが成立した歴史的経過などに、理解が及んでいないのでないかと思わざるを得ない。このような知性と品位の欠如した大統領を持つに至ったアメリカ国民の不幸を思うと共に、これに抗して裁判闘争を続けているアメリカの心ある法律家に対し、敬意と激励を送りたいものである。
人権不在の国家へと漂流しつつあるかに見えるアメリカの現状に対し、「アメリカよ、何処へいく」との標題を付した次第である。司法がこれにストップをかけ、三権分立の思想の正しさを世界に示すことを期待したい。そして、それによって「トランプ下のアメリカでも、やはり人権と民主主義は守られた」との結果が導かれることに期待をしながら、日々のニュースに注意を払っていこうと考えている。
岡本弁護士によるトランプ問題の第1信は、こちら